あいつが家庭教師としてやって来るのは月に一度。
会えるのも、月に一度。

待ちに待った明日は約束の日。自然と顔が緩む。

食器棚の中にはロスとルキとボクのマグカップ。奥にはクレアさんの分もある。
それぞれの名前の頭文字が入ったマグカップ。それは以前、ロスとクレアさんが
旅の途中で立ち寄った街で買ってきてくれたお土産のマグカップだ。
今ではみんなの私物としてここに常備している。いつもロスは家庭教師に来る度に
このカップを使っていた。普段は嫌がらせレベルのお土産しか買ってこないのに。
先月は東方の街で買ったという呪いの藁人形という五寸釘の打ってある不気味な人形を持ってきた。
その前は干からびた…止めよう、思い出さない方がいい。立派な前科があるせいで珍しくまともな物を
用意したねと余計な事を口にしてしまい容赦なく手元の分厚い本の角で頭を殴られた。
実はこのマグカップ、全員分選んだのはロスらしい。クレアさんは内緒だよってこっそり教えてくれた。
そっと、ロスのマグカップを手に取って。左の親指でカップをなぞる。

(早く明日にならないかなあ…)

明日、ロスがここに来て、簡単な挨拶を交して、顔見た瞬間罵倒されそうだなあ。
先月なんて大量の課題が終わらなくて「勇者さんニートの癖にまだ終わってないんですか?」って
嫌み言われたし。でもいきなり正面から抱き付いたらどんな顔するかな?びっくりして殴られちゃうかな。
だって一月も会えなかったんだ。ボクだって今回は頑張って課題をこなして終わらせたんだ。
ご褒美もらったってバチは当たらないよ。

思い浮かぶのは、嫌味ったらしく笑った顔。
時折優しく微笑んでくれる顔。
全部全部、あいつのことばかり。顔が熱くなる。


ああ、明日が待ち遠しい。



(2013.09.23/イラスト:ヤマコ 文章:りい様)

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